不思議なくらい

かつての婚約者が転勤で遠方へ引っ越すので
送別のお茶をした。


うっすら日に焼けて ショートカット。
白い肌に長い髪、じゃすっかりなくなった私に
少しおどろいていた。
昔 彼にさんざんショートカットを勧められても
頑なに拒んでいたのにね。
ほら やっぱりとてもよく似合う、と納得顔。



4LDKで一人暮らしをすることになったという
新しい土地の話を聞きながら、
もしも 彼を支えることを自分の人生の
メインに据えようとしていた
何年か前の関係のままだったら、
もちろん一緒に行ったんだろうな、とぼんやり思った。
そういう生き方にはきっともう戻れない。


ふと気づくと 彼は今にも泣きそうな顔をしていて、
幾重にも折り重なった彼の複雑な感情が
言葉にされなくても 感じ取れた。
私もあえてふれなかった。
感傷的にはならなかった。
ただ 向こうでたくさんのしあわせが
この人を待っていてくれたらいいと思った。


私にとって試練の多い相手だったから、
いろいろと大変なことがあって ずいぶん鍛えられた。
その人と その人と一緒の未来を守るために必死だった
当時の自分を思い出して、ほほえましく思った。
ことに恋愛においては 器用になれない性分だけれど、
その時その時一生懸命であれば、後になって悔やむことはない。



それにしても。
あなたは会う度に どんどん 若く 強く
まぶしくなっていくね、と。
何年後になるかわからないけど、今度会う時が
楽しみだ、と。


おたがいの場所でがんばりましょうと、
交差点で笑顔で手を振って別れた。
彼は 私の姿が見えなくなるまで見送っていたのかもしれない。
私は 振り向かないでまっすぐ歩いて行った。
心はずっと凪いだまま。