わたしを離さないで

Remains of the Dayが数年前に読みかけたままに
なってしまっているので、
初めて読みきったカズオ・イシグロ


終始抑制されたトーンで語られる主人公の回想と現在。
外界に閉ざされた特殊な環境で成長していく
登場人物たちの友情や、恋愛や、グループ意識。
残酷な運命を受け入れることの強さ、悲しみ。
三人で成り立つバランスと、確かな絆。
失ったものへの思い。
微妙な心理まで繊細に描かれて、
登場人物の姿をリアルに感じられる。



SFの要素もあるけれど、科学技術の進歩や
人間のエゴに対する警鐘が主題ではない。

種や結末を知っているかどうかは、重要ではないから
いわゆるミステリー小説というのでもない。
けれど、読みすすめていくうちに世界を
理解していくという意味では、謎解きだと思う。


小さな頃は、世界は知らないことだらけで。
与えられる情報は、選別されたり、
手を加えられたりしたもので、全像まではつかめない。
断片をつなぎあわせて推理して、
いちおうわかったようなつもりになるけど、
本当の意味を理解するのはずっと後。
もっといろいろなことを経験してから。
そんな、きっと誰もが通ってきた、成長とともに
さまざまな物事の本当の意味を徐々に理解していく過程。
そのリアルさに既視感をおぼえた。



感情の表現のしかたも好き。
「突然、世界の手触りが優しくなりました」


深く、静かに、心を揺さぶられた。


わたしを離さないで

わたしを離さないで