祖父の本

父方の祖父は私が生まれる10年くらい前に亡くなっていて、
祖父のことは写真と伝え聞いた話でしか知らない。


語学と哲学と文学に秀でた学者肌の人だったそう。
なにかの雑誌の懸賞創作で入賞したこともあったと
昔祖母から聞いたことがある。
でも、戦災で家にあった祖父の作品は
失ってしまって残っていないし、
身内の話だから多少の誇張もありうると思って、
素人の趣味程度じゃないかと勝手に想像していた。



伯母に詳しく聞いて調べてみると、とんでもなかった。
文壇への登竜門のひとつだったらしい。
評論部門では小林秀雄が入賞していたり。
小説部門では若かりし日の太宰治
坂口安吾が落選していたり…
祖父に申し訳ない。。。



祖父が訳した本や、祖父のことが紹介されている本を
たまたまネットでみつけたので、家族から父に
父の日のプレゼントにサプライズで贈ろうと取り寄せた。


翻訳本は昭和15年発行。
戦禍を免れた本だ。
横書きの箇所は文字が右から左だし、旧字体
紙の色はすっかり茶色っぽくなっているけれど、
汚れも折れもなく、大切にされていたよう。
…でもなんとなく体がかゆくなった。


訳者の前書きに、祖父が原著者と原著作物について
簡潔に記していた。
初めて触れた祖父の文章。
政治的成心なしに全く自由の立場から
大胆率直にとらえているところや、
視野の広大さ、記述の公平さを評価している、と。
テーマが当時の日本の国益と直接関係のない
文化圏だったからというのもあるだろうけど、
あの時代にそういう観点で物事をみられていた人かと思うと
ちょっとうれしかった。
あとせめて15年長生きしてくれていたら
おもしろい話をいっぱい聞かせてもらえただろうな。


入賞した作品も読んでみたい。
難しいかもしれないけれど、探してみよう。